はじめに
獣医学教育モデル・コア・カリキュラムに「野生動物学」が加わり(2013年)、日本獣医学会には「野生動物学分科会」が設立され(2013年)、そして、日本獣医師会から「保全医学の観点を踏まえた野生動物対策の在り方」が発表された(2016年)。これは、野生動物医学、保全医学が担う領域が、野生動物に関連する諸問題の解決に重要な役割を果たすことを関係者に理解していたいだ結果である。日本野生動物医学会は1994年に設立総会が開催されてからこれまでの25年間、学術活動(定期的な学術集会の開催、学術雑誌の発行等)および実践的活動(高病原性鳥インフルエンザ発生時の緊急対応等)を通じて、野生動物医学、保全医学が、獣医学および応用動物科学の一端を担う学術領域であることを国内に広く浸透させることに重要な役割を果たしてきた。加えて動物園に学術基盤の構築することを目的とする「動物園学」の創成にも本学会の会員は関与している。加えて、これまでの学会活動経験を生かして、One Healthの概念に基づく実践活動(特に人と動物の共通感染症対策)に関して他の関係機関と連携して行くことが可能である。
また、2006年に設立されたアジア野生動物医学会(2016年よりアジア保全医学会へ改称)への人的、財政的活動支援を通じて、本学会は、アジア地域において野生動物医学、保全医学に関連する研究、教育活動の活性化や関係者間のネットワーク構築に中心的な役割を担ってきた。本学会の会員が中核となっているアジア保全医学会の活動は、国際的な学術団体Wildlife Disease Association(WDA)の関心を引き、2016年にはWDAとアジア保全医学会との間で連携協定が結ばれている。その後、2018年にはWDA Asia Pacific section(WDA-AP)が設立された。このWDA-APの創設にも本学会の会員が中心的な役割を果たしている。このように、日本野生動物医学会は、国内のみならずアジア地域において野生動物、動物園動物等の保全活動や研究活動の活性化に重要な役割を果たしてきた。
活動方針
本学会は、アジア地域における野生動物医学、保全医学分野の中核を担う学術団体として発展してきた。しかしながら、会員数が六百数十名前後で推移している(目標会員数800名)、専門医試験の受験者が過去6年間いない、学会誌への投稿数が増えない等、これまでも認識されながら、解決に向けた対応をとることがやや遅れていた課題があることも事実である。これらの問題点の根本的な原因は、本学会の会員となるメリットを実感できていないことに起因していると私は考えている。そこで、2019年4月より開始される第9期においては、アジア地域における野生動物医学、保全医学分野の中核を担う学術団体としての活動レベルを維持しつつ、先に挙げたような諸問題を今期3年間で解決し、本学会の会員となるメリットのさらなる拡大を目指したい。メリット拡大の実現に向けて、以下3項目を重点事項とする。
重点事項
1.会員への情報提供および活動支援の充実
(関与していただきたい委員会:広報、学会誌編集、ニュースレター編集、学術・教育、感染症対策、臨床・普及啓発、国際交流・アジア保全医学会、経理・保護基金、公益法人化、学生部会)
1-1学会ホームページの機能拡充:国内外の学術、トレーニングプログラム、感染症、臨床技術等の情報(動画を含む)を集約し公表。
1-2学会誌、ニュースレター利用の活性化と発行形態の再考:論文執筆支援。データペーパー部門の新設。学会誌とニュースレターを統合できるか検討。PDF化。アジア保全医学会から提案のあった英文誌の共同発行の検討。
1-3会員の活動に対する財政的な支援:保護基金への募金活性化。保護基金の活用。関係学会への参加者派遣。
2.卒前・卒後研修制度の整備
(関与していただきたい委員会:専門医協会、学術・教育、学会誌編集、感染症対策、臨床・普及啓発、SSC、国際交流・アジア保全医学会、学生部会)
2-1野生動物医学カラーアトラスの完成
2-2新しい体制による学生向けセミナーの実施(スチューデントセミナーコースに代わる学生向けセミナーの新設)
2-3野生動物医学、保全医学、動物園学分野の専門家育成制度の整備(論文執筆支援。各種講習会の実施。デイプロマコースおよびレジデントコース設置検討)
3.野生動物の研究や保全活動に関わる国内外規定等への遵守対応
(関与していただきたい委員会:野生動物保全・福祉、国際交流・アジア保全医学会)
3-1野生動物を対象とする研究活動における倫理規定の整備(特に苦痛度の評価基準)
3-2終生飼育下にある希少種への対応
3-3国内外から関連する情報の収集(関連法令の改正、レッドリストの改訂、IUCNの各種ガイドライン等)