野生動物医学教育の提言

日本における野生動物医学教育の確立に向けての提言

【要約】

 近年、獣医学における野生動物医学分野への社会からの要請が強まっている。この傾向は獣医系大学への入学生の志向にも顕著に表れており、環境問題の一分野である野生動物の保護に関心を寄せる入学生が少なくない。しかしながら、すべての獣医系大学に共通した包括的な野生動物医学教育プログラムは未だカリキュラム上にみられていない。今後この点を是正し、社会や学生からの要望にも応えられるように、獣医系大学において適切な野生動物医学教育が行われる必要がある。

 地球環境の悪化に伴い野生動物の絶滅はかつてない速度で進行し、このまま進めば人類の生存をも危うくする危機に瀕することが予測される今、種の多様性の確保や遺伝子資源の保全は世界的な重要課題となっている。この問題に対して、世界各国の大学や研究機関による国際的な対応がなされる中、野生動物医学からのアプローチも盛んである。そのような状況の中、日本の獣医系大学で野生動物医学の教育プログラムが組まれ、専門的な知識や技術を備えた人材の育成が今求められている。

 最近の鳥獣保護法の改正により、将来的には野生動物保護行政に携わる専門家が増え、その中に野生動物医学専門家の配置が求められるであろう。野生動物医学教育を受けた学生が、野生動物の保護管理および救護活動を実践する専門家として技量を発揮する日もそう遠くない話と思われる。一方、獣医生態学に関する教育は、学生の職業選択に拘わらず獣医学教育の中で必要不可欠な基礎科目として位置付けられるべきである。

 野生動物医学教育の柱は、動物の生体機構のしくみを深く理解しながら、自然生態系のバランスを崩さないように環境を健康な形で保全していく知恵や知識を養成することにある。野生動物医学教育にあたって、単に産業動物や伴侶動物で確立された臨床技術や研究成果を野生動物に応用してみるというのではなく、根本的な学問教育の方向性の違いを提示する必要がある。

 このような理念の元に、以下のような野生動物医学教育プログラムを提言する:

獣医生態学:低学年向30時間2単位必修
野生動物医学:高学年向30時間2単位選択
野生動物医学実習:高学年向45時間1単位選択